中国で飲んだプーアル茶と日本で淹れたプーアル茶の味が違う。
これはよくある話である。
それは中国の思い出を心で味わっているのですよ。などということはなく、実際にその味わいは異なる。
プーアル茶に限らずお茶類の味わいと水には大きな関係がある。
実際はその違いはお茶だけでなく、料理、ひいては文化の違いまで影響を及ぼしている。
中国と日本での水の味の違いはそれぞれの地形、地質の差による。
国土が細長く、山なりな日本。大陸の広い国土である中国。
日本には軟水が多く、中国では硬水が多い。
水源にもいろいろとあるが、山に降った雨や雪が川や地中の水脈となり水源となる。
その通り道にミネラルが多いほど、その距離が長いほどミネラル分は多くなる。
国土が狭く、急峻な日本では水の流れも速く、ミネラル分の溶け込みが少ない軟水となり、広く、平坦な中国ではゆっくりとミネラル分が溶け込んだ硬水が多くなる。
プーアル茶を淹れる水には軟水が向いている。
これはプーアル茶に限らず、茶全般において、東西にかかわらず一般に言われていることであるが、中国ではどうだろうか。1000年以上昔に書かれた、茶の聖書とも呼ばれる「茶経」の中でも「山の水が上。川の水は中。湧水は下」とある。これをもう少し深く、科学的に読み解けば「ミネラル分を含まない山の水が上、山から長い距離を下ってきた川の水は中、地中を長い時間をかけて、ミネラル分の層を通過してたっぷりとミネラル分を含んだ地下からの湧き水は下」ということであろう。
茶をたしなむ中国人であれば水へのこだわりは大きい。
茶を淹れるために使用する水にはそれぞれこだわりがあるある。これは軟水が基本である日本に対して、中国では硬水多いということの裏返しでもあるが、硬軟以前の水質によるところが大きい。
中国の料理は「水を作る」ことから始まる。
中国の河川は雄大であるが、その分流れが遅く、粘土質の土壌が溶け込み、浄化も遅くにごっている。このような水をそのまま使うことはできないので、ろ過や蒸留をおこなったりする。処理をした水であっても雑味が残るので、それを覆い隠す意味もあり、中華の出汁は濃く香りの強いものが基本である。さらにいえば、中華料理で油を大量に使うのも水の風味を食材に移さないための工夫がその発展の出発点である。
このような背景があるので中国で茶を飲もうとすると、適切な水を探すことが必須である。
探すとなれば皆こだわるのでそれぞれ水に対して一家言持った茶人となるのである。
翻って、日本では上にも書いたようにもともと茶を淹れるのに適した軟水が多い。
雨量も多く、急峻で新陳代謝の早い日本の河川は澄んでいて、地下を流れる水も地層が程よくフィルターの役割を果たすので味がよい。日本であれば売っているミネラルウォーターでなく、水道水であっても問題なくお茶を淹れることができるのが基本ではないだろうか。味が悪いのであれば、それは水そのものよりも、蛇口までの水道管などに問題があるのがほとんどであろう。
それでもさらにこだわる方であれば、ミネラルウォーターはお勧めである。おいしい水=ミネラルウォーターと思われる方も多いかと思う。実際、ミネラルウォーターはおいしい水であるかもしれないが、プーアル茶に適した水であるとは限らない。硬水軟水の話に戻るが、お茶に適している水は軟水である。店で買えるミネラルウォーターを見てみると、軟水のものだけではなく、硬水のものも多いので注意が必要だ。
以前、プーアル茶を淹れるのに
いろいろなミネラルウォーターで実験を行ったことがあります。
それまで一般論として知っていた硬水軟水の違いですが、実際に実験をしてみるとそのあまりもの違い、ひいては目に見える違いに大きく驚きました。写真だけでもその違いはわかるので是非一度ご覧ください(⇒
プーアル茶をいろいろな水でいれてみる)。
一般論で言えば軟水、硬水の違いなのですが、実際は同じ硬度でも、カルシウムか、マグネシウムかなど
溶解しているミネラルが異なればその味わいは異なりますし、またその形が異なれば味わいは大きく異なります。
興味のある方はいろいろと試してみたらよいかと思いますが、おいしいプーアル茶を飲むのであれば基本水道水でも問題ありません。さらにこだわるのであれば軟水のミネラルウォーターをお勧めします。
さて、最初の話に戻るとどうか。
中国では一般的に硬水が多いですが、そこは広い中国、軟水の出る地域もたくさんありますし、茶にこだわっているところで飲んだのであればそれは特別な水かもしれません。その水と同じ味の水を探すのは至難の業で、探しているうちに中国で飲んだ茶の味は思い出になってしまいます。やはり茶は心で飲むのが一番なのかもしれませんね。