前回からの続きです。
最も基本的なお茶の作り方は「
プーアル茶とは3: そのお茶、その1」にも書いたように「青殺、揉捻、乾燥」という手順になります。ここで青殺についてもう少し詳しく見てみましょう。
お茶の種類は一般的に茶葉の発酵度(酸化度)の違いとされます。茶葉の発酵(酸化)は茶葉に含まれる酸化酵素によって引き起こされます。
青殺とは茶葉に熱を加え、茶葉に含まれる酸化酵素を不活化する工程です。緑茶やプーアル茶では茶葉を摘んだあとの最初の工程で青殺を行い早い段階で発酵(酸化)をとめます。一方紅茶では青殺は行われず茶葉は完全に発酵(酸化)されます。
青殺の方法には炒、蒸、煮などいくつかありますが、たとえば日本の緑茶では茶葉を蒸すことによって青殺を行いますが、中国では茶葉を炒ることによって青殺を行うことが一般的です。
青殺は現在は機械で行われることが多くなっていますが、昔は大きな鉄鍋で茶葉を炒る形で熱を通していました。実際の現象としては、鍋肌から直接で熱を受けて火が入っていくものもあれば、茶葉の水分によって上がる蒸気で蒸炒めされる状態で火が通されていきました。
とはいえ、茶葉をつむのは山の奥地、そこには立派なかまどが準備されていないこともしばしば、そこで行われる青殺では火は入りきらず、結果茶葉の酵素は完全には不活化されずに残ります。
この残った酵素が長い旅路の中で茶葉に作用して茶葉の発酵は進みます。ヨーロッパまでの航路を長い時間をかけていく間に出荷された時は緑茶であったものも発酵が進み紅茶のようになっていました。
(ヨーロッパに送られた茶の多くが低級茶であったことも関係しています)
このように作られたときの意図から外れる形で生まれてきたものがプーアル茶であり、原始的な紅茶でもありました。
ここからは話をプーアル茶に戻しましょう。
プーアル茶にはもうひとつ大事な要素がありました。それは成型です。出来上がった茶葉は餅茶などの固形茶の形に押し固められました。これは輸送のしやすさの面で大事な工程でしたが、じつは味の面においても重要な役割があります。
プーアル茶に限らず、お茶には味と香りという二つの大きな要素がありますが、この中で香りは茶成分の中でも揮発性のあるものとなります。日本茶を例に挙げますが、緑茶である日本茶は新茶であることが喜ばれます。逆に古くなり香りが抜けたお茶はぼけた味となりその価値は下がります。そのため、お茶は茶缶や茶箱のように気密性が高く香気成分が抜けないように十分に気をつけて保存されます。
プーアル茶は成型されることによってその気密性が保たれます。最近はゆるめに押し固められたプーアル茶も多くなりましたが、伝統的なプーアル茶作りでは茶葉はしっかりと固く押し固められます。押し固められることによって余分な空気は抜かれ、茶葉は外気から遮断されます。一方、香気成分は茶葉の中から抜け出さずに茶葉の中に保たれます。
このようにして茶葉の中に保たれた香気成分は長期にわたる熟成を経てだんだんと変化し陳香などプーアル茶独特の香りへと変化していきます。
酵素を残すことによって茶葉に熟成の余地を残し、さらに長期の熟成でもおいしさを保つ状態に仕上げる。雲南省で作られた茶は長い旅路を行くあいだに熟成し、広州の地にてプーアル茶文化は花開きました。
プーアル茶の原型は見えてきました。つづいてはプーアル茶文化について見ていきましょう。